水力発電の設備② 〜吸出し管の理論〜

キーワード:速度水頭、位置水頭、圧力水頭、吸出し管、水車出口の圧力エネルギー、吸出し高さ
難易度:★★★★☆(二種レベル)


吸出し管の必要性

前回の記事で、反動水車には吸出し管が設置され、それによって水車出口の圧力を小さくしているという話がありました。
しかしこのことは直感的に理解しにくいため、今回はもう少し詳しく吸出し管について説明したいと思います。
繰り返しになりますが、衝動水車運動エネルギーを、反動水車圧力エネルギーを利用して回転する水車です。
そして前回説明した通り、水車出口における各エネルギー(衝動水車なら運動エネルギー、反動水車なら圧力エネルギー)できるだけ小さくなれば、エネルギーを余すことなく水車に伝えたことになり、 水車効率は高くなります。

それでは『できるだけ小さく』とは具体的にどの程度でしょうか?
ベルヌーイの定理の式を確認しましょう。


これは以前説明した、ベルヌーイの定理の式を高さの単位で表した式です。
高さの単位で表しているのでそれぞれの項の呼び方はエネルギーではなく水頭と呼びます。
つまり第1項(v^2/2g)速度水頭、第2項(h)位置水頭、第3項(p/ρg)圧力水頭になります。

ここで、速度水頭速度vの2乗に比例するため、その大きさは0以上になります。
したがって衝動水車を効率よく回すためには、水車出口の速度を0に近づければ良いということになります。

一方、圧力水頭圧力pに比例します。
圧力はゲージ圧で考えているため、マイナスになることもあります。
つまり圧力水頭が最も小さくなるのは水車出口の圧力pがマイナス領域も含めて最も小さくなるときで、それは真空状態を意味します。
したがって反動水車を効率よく回すためには、水車出口の圧力を真空状態に近づければ良いということになります。

水車出口で何も細工しないと圧力は大気圧程度になってしまうので、吸出し管を用いて大気圧より小さく、できるだけ真空状態に近づけるような措置が施されているのです。
吸出し管の原理
吸出し管の必要性が分かったところで、今度は吸出し管の原理について、つまりなぜ水車出口の圧力を大気圧より小さくできるのかについて説明します。

まずは吸出し管がない場合を考えます。
つまり反動水車の出口で水流を空気中に自由に放出した場合についてです。


この場合、当然ですが空気中に放出しているので、水車出口の圧力は大気圧と等しい、つまり0になります。



次に断面積が等しい吸出し管を設置した場合について考えます。


この場合、水車出口と放水面についてベルヌーイの定理を適用すると以下のようになります。


ここで連続の式 Q = A1v1 = A2v2 より、断面積が等しいと速度も等しくなる、つまりこの場合 A1=A2 なので K1=K2 であることが分かります。
したがって水車出口の圧力エネルギーP1は0以下、つまり大気圧以下の状態を実現できるのです!
吸出し管の高さ吸出し高さと呼び、これが大きければ大きいほど水車出口の圧力エネルギーP1が小さくなることが式から分かると思います。


ここでさらに放水面に向かって断面積が大きくなっていくような、ラッパ型の吸出し管について考えましょう。


この場合も同じく水車出口と放水面についてベルヌーイの定理を適用すると以下の式のようになります。


ここで連続の式 Q = A1v1 = A2v2 より、断面積が大きいほど速度は小さくなる、つまりこの場合 A1<A2 なので K1>K2 であることが分かります。
したがって上の式の右辺にあるK1 - K2はプラスになるので、これも水車出口の圧力エネルギーP1を小さくするのに寄与します。
つまり吸出し管をラッパ型にすれば、吸出し高さを高くし過ぎなくて済むということです。


まとめ
①吸出し管の原理:
水車出口と放水面を接続
⇒ 吸出し高さの分だけ水車出口の圧力低下

②吸出し管の構造:
放水面に向かって断面積増加
⇒ 連続の式より速度減少
⇒ 水車出口の圧力低下
⇒ 吸出し高さ低減可能

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