水力発電の基礎② 〜発電機出力〜
キーワード:総落差、損失落差、有効落差、理論出力、発電機出力
難易度:★★☆☆☆(三種レベル)
水力発電におけるベルヌーイの定理
前回の記事でベルヌーイの定理について学びました。
その式は以下のようなものでしたね。
流体のどの箇所で考えても、位置エネルギーU、運動エネルギーK、圧力エネルギーPを足したものは常に等しいという定理です。
それではこの式を実際の水力発電に当てはめて考えてみましょう。
水力発電の大まかな構成は下図の通りです。
上池における水面の高さ、つまり総落差をHa[m]とすると、その点では水面がほとんど動かないため運動エネルギーKは0、またその点より上に水がないため圧力がかからないので圧力エネルギーPは0となります。
(厳密には大気圧が存在しますがゼロと考えて問題ありません、詳細はコラムをご参照ください。)
したがって、1秒当たりの水の流量(体積)をQ[m^3/s]とすると、ダムなどの水面が持つ総エネルギーは位置エネルギーU = mgHa = ρgQHa [J/s] のみとなります。
この水が水車の位置まで来たとき、位置エネルギーUは0となり、ベルヌーイの定理によってρgQHaの位置エネルギーは運動エネルギーKと圧力エネルギーPに分けられます。
と言いたいところですが、実際の水路では水と壁面との間での摩擦や水管の曲がっている箇所での抵抗などによってエネルギーの損失が発生します。
この水管内でのエネルギー損失は一般に高さの単位で表して損失落差と呼ばれ、エネルギー損失Plは損失落差をhl[m]とするとPl = ρgQhlとなります。
改めてベルヌーイの法則を考えると、水面の位置エネルギーU = ρgQHaから水管内のエネルギー損失Pl = ρgQhlを引いたものが、水車の位置での運動エネルギーKと圧力エネルギーPを足したものに等しくなります。
この式が水力発電におけるベルヌーイの定理の式となります。
有効落差と理論出力
上の式における左辺は以下のようにまとめることができます。
この式におけるH = Ha - hlを有効落差と呼びます。
有効落差は、高さ(総落差)Haにある水が持つエネルギーのうち、水管内でのエネルギー損失分を引いた、実際に水車に作用させることのできるエネルギーを高さの単位で表現したものになります。
つまり上の式は水車に入力されるエネルギーであり、これを理論出力と呼びます。
理論出力P0は以下の式になります。
ここで一般に水の密度はρ = 1000 [kg/m^3]、重力加速度はg = 9.8 [m/s^2]であるため、これを代入すると理論出力は、
P0 = 9800QH [W] = 9.8QH [kW]
となります。
発電機出力
理論出力は水車に入力されるエネルギーであり、水車でも幾分かの損失が発生するため、発電機に入力されるエネルギーは理論出力よりも若干少なくなります。
水車効率をηwとすると、水車出力(発電機入力)Pwは以下のようになります。
さらに、発電機の効率も100%ではないので若干の損失が発生します。
発電機効率をηgとすると、発電機出力Pgは以下のようになります。
以上により、ダムの水面の水が持つ位置エネルギーによって最終的に電力が発生するという流れを式によって確認することができました。
水車の位置での理論出力P0の内訳として運動エネルギーKと圧力エネルギーPがどのように配分されるかについて今回は触れませんでしたが、これは水車の形状によって決まります。
今後様々な種類の水車が出てきますが、これは位置エネルギーを運動エネルギーとして利用するか圧力エネルギーとして利用するかの違いということになります。
まとめ
①総落差:
水面が持つ位置エネルギーに対応する高さ
②損失落差:
水管内での損失に対応する高さ
③有効落差:
有効落差=総落差-損失落差
実際に水車に作用するエネルギーに対応する高さ
④理論出力:
実際に水車に作用するエネルギー
⑤水車出力(発電機入力):
水車から出る機械エネルギー
(=発電機に入る機械エネルギー)
⑥発電機出力:
発電機から出る電気エネルギー
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