火力発電の基礎⑤ 〜ボイル・シャルルの法則〜

キーワード:分子間力、理想気体、ボイルの法則、シャルルの法則、理想気体の状態方程式、温度とエントロピーの関係式、圧力・体積・温度の関係式
難易度:★★★★☆(二種レベル)


理想気体とは?

前々回前回の記事で、p-V線図T-s線図上に熱サイクルを表す方法を説明しました。
熱サイクルは動作流体(火力発電においては気体の状態変化の繰り返しでしたが、そもそも状態変化にはどのような種類のものがあるのでしょうか?
次回の記事で状態変化の種類について説明したいと思います。
今回はその準備編です。
まずは動作流体である気体について考えましょう。
実際の気体は非常に小さな分子で構成されていて、その分子同士の間には分子間力と呼ばれる力が働いています。
分子のサイズが大きいほど分子間力は大きくなるので、実際にはあり得ませんが仮に分子が大きさを持たないとすると、分子間力はゼロとなります。

 

このように分子が大きさを持たず分子間力が働かないような気体のことを『理想気体』と呼びます。
通常の圧力や温度の範囲においては、気体は理想気体とほぼ同じような振る舞いをすることが分かっているので、今回の記事では気体を理想気体として取り扱うことにします。

ここで注意すべきなのは、火力発電においては高温・高圧の蒸気を利用するので、理想気体とは異なる振る舞いをすることです。
今後火力発電について議論する際には、今回の記事の内容が100%当てはまるわけではないということにご注意ください。


ボイル・シャルルの法則

理想気体においては、ボイルの法則シャルルの法則が成り立ちます。

『ボイルの法則』とは、外部からエネルギーを与えず、かつ温度が一定に保たれるという条件の下では、気体は状態変化の前後で圧力と体積の積が変わらないという法則です。
言い換えれば、状態変化前の圧力をp1、体積をV1とし、状態変化後の圧力をp2、体積をV2とすると以下の式が成り立つということです。

 

一方『シャルルの法則』とは、外部からエネルギーを与えず、かつ圧力が一定に保たれるという条件の下では、気体は状態変化の前後で体積と温度の商が変わらないという法則です。
言い換えれば、状態変化前の体積をV1、温度をT1とし、状態変化後の体積をV2、温度をT2とすると以下の式が成り立つということです。

 

この2つの法則から言えることは、気体の体積はボイルの法則から圧力に反比例し、シャルルの法則から温度に比例するということです。
これを式にすると以下の通りで『ボイル・シャルルの法則』と呼びます。


この一定となる定数は気体の種類によって変わることが分かっており、これをガス定数と呼びます。
ガス定数をRと置くと、上の式は以下のように書き換えられます。


この式を『理想気体の状態方程式』と呼びます。
高校時代の化学の主役とも呼べる方程式ですね。


温度とエントロピーの関係式

前回までに登場した公式を一度ここでまとめておきます。
まずは熱力学第一法則の式です。






最後に先ほど説明したばかりの理想気体の状態方程式です。


さらに、理想気体において内部エネルギーUは温度Tに比例するという性質があるので、比例定数をCと置くと、微小な内部エネルギーの変化ΔUは以下の式で表されます。


以上の5つの式を使って、状態変化を論じるのに必要な式を導きます。
数学が嫌いな方は結果だけ見ていただければ良いと思います。

まず熱力学第一法則の式について、微小な熱エネルギーについて考えれば以下のように書き換えられます。


これに微小な仕事の式、エントロピーの定義式、微小な内部エネルギーの変化の式をそれぞれ代入すると以下のようになります。


上の式の両辺を温度Tで割って、Δs、ΔT、ΔVを限りなくゼロに近づけると、


となります。
理想気体の状態方程式を変形するとp/T = R/Vとなるので、右辺第2項に代入すると、


となります。

この式を両辺について状態1から状態2まで積分すると以下の式となります。


この式は等圧変化・等積変化のT-s線図を描く際に用いられます。

圧力・体積・温度の関係式

次回の状態変化に関する議論のための準備に、退屈かも知れませんがもう少しお付き合いください。

気体の圧力p、体積V、温度Tがそれぞれほんの少しだけ変化した場合、つまり圧力p + dp、体積V + dV、温度T + dTとなったとき、理想気体の状態方程式は以下のようになります。


ここで微小な値同士の積は無視できるくらいに小さくなるのでゼロとすると、


となります。
また、理想気体の状態方程式によれば左辺のpVと右辺のRTは等しいので消すことができます。


この式は断熱変化のp-V線図を描く際に用いられます。

まとめ
①理想気体:
分子間力がゼロの気体のこと

②ボイルの法則:

③シャルルの法則:

④ボイル・シャルルの法則:

⑤理想気体の状態方程式:

⑥温度とエントロピーの関係式:

⑦圧力・体積・温度の関係式:

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