火力発電の基礎⑦ 〜カルノーサイクル〜
キーワード:高温熱源、低温熱源、熱効率、カルノーサイクル、可逆変化、不可逆変化
難易度:★★★☆☆(三種レベル)
熱効率が最大となる熱サイクルとは?
以前説明したように、熱機関において得た熱エネルギーの一部を捨てないと連続的な仕事は得られないという『熱力学第二法則』が存在します。
そのため、熱サイクルには受熱過程と放熱過程が必須です。
つまり、動作流体が熱を受けるための高温熱源と、熱を捨てるための低温熱源の2つの熱源が必要になります。
それでは高温熱源の温度がT1、低温熱源の温度がT2という条件の下で、最も熱効率の高くなる熱サイクルについて考えてみましょう。
まずは熱効率のおさらいです。
下図のような熱サイクルにおいて、正味の仕事W(= Q)は閉じたループの面積、つまり赤色の部分となります。
また捨てる熱エネルギーQ21は閉じたループの下側の面積、つまり青色の部分になります。
そうしたとき、熱効率は以下の式で求められます。
要するに(熱効率)=(赤)/(赤+青)ということです。
この式からQ(赤色の面積)が大きくなればなるほど熱効率は100%に近づくことが分かりますね。
つまり、高温熱源と低温熱源の温度がそれぞれT1、T2と決まっているならば、その制約下で最もQが大きくなるような熱サイクルを考えれば良いのです。
温度の制約があるので、T-s線図で考えるのが分かりやすくて良いでしょう。
T-s線図を用いることによって、熱効率が最大になる熱サイクルはどういうものかという問いは、このグラフ上の2本の点線の内側でいかに大きなループを描くかという問題に変換できるというわけです。
カルノーサイクルとは?
それでは実際にT-s線図上に熱効率が最大となる熱サイクルを描いてみましょう。
説明するまでもなく以下のような長方形となることは直感で分かりますよね。
これで正解なのです。
これが熱効率の最大となる熱サイクルです。
しかしここで『横幅の制約がないなら、いくらでも横に長くすればそれだけループの面積は増えるんじゃないの?』と疑問に思った方もいるかもしれません。
つまり下図の左より右のほうがループの面積は広いじゃないか、ということです。
もちろんループの面積(赤色部分)は右の図の方が広いですが、ループの下側の面積(青色部分)も広くなってしまいます。
左の図の熱効率を求めると、
となって式からΔs1が消え、右の図の熱効率を計算しても同様にΔs2は消えるので、左と右で熱効率は全く同じになります。
つまり熱効率について論じる上では横幅は一切関係ないということになります。
さらに、η = 1 + T1/T2なので、高温熱源の温度T1と低温熱源の温度T2が分かれば、出入りした熱エネルギーや仕事に無関係に熱効率が決まるという特長があります。
この熱サイクルを『カルノーサイクル』と呼びます。
今まで説明してきたように、カルノーサイクルは理論上最も熱効率の高い熱サイクルということになります。
カルノーサイクルは実現可能か?
カルノーサイクルについて、熱効率が『理論上』最大であるという説明をすると、勘の良い方は「もしかして実際には実現できないんじゃないか?」と思うかもしれません。
その答えは『半分正解で半分誤り』です。
カルノーサイクルの状態変化について考えましょう。
まず状態1から状態2へは等温変化で熱エネルギーを得て、状態2から状態3へと断熱変化します。
そして状態3から状態4へと等温変化で熱エネルギーを捨てて、状態4から状態1へと断熱変化で元の状態に戻ります。
つまり、熱サイクルの中に等温変化が2回あります。
しかし等温変化というのは基本的にものすごくゆっくりとした変化なので、カルノーサイクルを1周回すだけで相当な時間がかかってしまいます。
また、実際には各状態変化において摩擦などよって損失が発生します。
摩擦は工夫次第でほとんどゼロにすることができますが、それでも多少は発生してしまいます。
このように、摩擦などによってエネルギーが失われることにより、同じ状態変化を逆に実施しても元の状態に戻ることが出来ないような変化を『不可逆変化』と呼び、反対に逆の状態変化を実施することで元の状態に戻ることができる変化を『可逆変化』と呼びます。
(世の中の全ての状態変化は『不可逆変化』です。)
したがって、摩擦などによるエネルギー損失の非常に少ない、カルノーサイクルに極めて近い熱機関を作ることは不可能ではないが、1サイクル回すのに極めて長い時間がかかってしまうため、とても実用に耐えるレベルではありません。
しかしカルノーサイクルのT-s線図上の形が最も熱効率の高い形であることに変わりはないため、実際に熱機関を作る上では、熱サイクルがカルノーサイクルの形に近づくようにすることが重要となります。
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