電力系統について① 〜発電所で昇圧する理由〜

キーワード:電力系統、発電所、変電所、送電線、配電線、電圧、電流、電力、発電所での昇圧の理由

電力系統とは?

電力系統という言葉をご存知ですか?
発電所で発生させた電力は、巡り巡って需要家まで届いて消費されますが、そのシステム全体のことを『電力系統』と呼んでいます。

具体的には下図のようになっています。


電気を作っている場所は発電所です。
発電所には大型の発電機がありますが、その発電機の基本的な原理前回の記事でお話しした通りで、軸をぐるぐる回せば電圧が発生するというものでした。
水力発電所火力発電所原子力発電所などいろいろな種類の発電所がありますが、実は発電機の軸を回すためにどのような力を利用しているかという違いがあるだけなのです。

そして発電所で発生した電気は、発電所内の変圧器非常に高い電圧に変換され、その後送電線を通って変電所に向かいます。
地方の山や都内の海の近くなどに行くとよく見ることができる、鉄塔にぶら下がった電線が送電線です。

ちなみに鉄塔の一番高いところには、電車線の説明でも登場した架空地線が張られており、雷から送電線を守っています。

そうして変電所に着いたら、電気は少し低い電圧に変換されます。
そしてまた送電線を通って次の変電所へ向かい、そこで再び少し低い電圧に下げられ・・・と何度か繰り返します。

最後に到着する変電所のことを配電用変電所と呼んでいますが、ここで電圧を下げられた電気は、配電線を通って各家庭や工場などの需要家のもとへやって来ます。
配電線街中の電柱にぶら下がっている電線のことです。

各家庭に入る前に、最後の変圧器である柱上変圧器100V(ボルト)や200Vという低い電圧まで下げられて、需要家に引き込まれています。
柱上変圧器は街中の電柱に乗っかっているポリバケツのような容器の中に入っています。


そもそも電力とは何か?

『なぜ最終的に家庭では100Vという低い電圧が使われているのに、発電所でわざわざ電圧を高くするのだろう?』と疑問に思いませんでしたか?
これを説明するには、そもそも電力とは何であるかについて理解しなくてはなりません。


さきほどから話題になっている電圧とは何かというと、電気を流そうとする圧力のことです。

コンセントには、電圧という名の『電気を流すための圧力』がかかっているため、電化製品を接続すると、その製品に電気が流れます。
この『電気の流れ』のことを電流と呼び、単位はA(アンペア)です。


電圧電流が分かったところでいよいよ電力について考えましょう。

電化製品などには何ワットという表示のあるものが多いと思います。
例えば電子レンジには多くの場合500W(ワット)や1000Wと記載されていますよね。

これこそが、その電化製品が機能するために消費する『電力』です。
つまりワットとは電力の単位になります。

電力Pは、電圧Vと電流Iのかけ算(P=VI)で定義されています。
つまり、100Vのコンセントに電子レンジをつないだとき、電子レンジに5Aが流れたとすると、その電子レンジの消費電力は100V×5A=500Wということになります。

ここで注目すべきは、100V×5Aでも5V×100Aでも、はたまた500V×1Aでも、すべて同じ500Wになるということです。
電力とは、あくまで電圧と電流のかけ算でしかないのです。


ジュール熱とは何か?

電気は、発電所から需要家の負荷に至るまでの間、長距離の送電線や配電線を通ります。
これらの電線には電気が通りやすい、つまり電気抵抗の非常に小さい金属が使用されています。
しかし電気抵抗が少しでも存在する以上、そこを電流が通過する際には発熱して電力の損失が生じてしまいます。
この発熱のことをジュール熱といいます。

電気抵抗をR[Ω・オーム]とすると、そこに電流I[A]が流れたときのジュール熱Ploss[W]は、Ploss=RI^2で計算できます。
つまり、電線を流れる電流は小さければ小さいほどジュール熱、つまり送電損失が少なくて済むということです。


発電所でわざわざ昇圧する理由

ここで最初の疑問に戻ります。
『なぜ最終的に家庭では100Vという低い電圧が使われているのに、発電所でわざわざ電圧を高くするのだろう?』という疑問です。

家庭では100V・500W(つまり5A)で使用したいとしても、そこに至るまでの電圧や電流の大きさは需要家からしたらどうでもいいことですよね。
あくまで需要家としては、コンセントに100V・500Wの電気さえ来てくれれば良いということです。

一方、電力会社からすれば、需要家は500Wの電力が欲しいだけなのに、そこに至るまでの送電損失が大き過ぎて、大元の発電所では600Wも700Wも発電しなくてはならないとなると馬鹿らしいですよね。
つまり電力会社は電力損失が小さくなるような経路で需要家まで電力を届けたいのです。
電力損失はジュール熱の式から電流の2乗に比例(Ploss=RI^2)しますから、電流を小さくすれば損失を大幅に減らすことができます。
電力は電圧と電流のかけ算ですから、需要家が500W欲しいのであれば、途中の経路では例えば500kV(500,000V)・1mA(0.001A)にすれば電力損失を限りなく小さくすることができます。

つまり、発電所で発生させた電気をわざわざ高い電圧にして送電するのは、送電損失をできる限り減らすためなのです。


例えるならば、ネット通販で何らかの商品を100個購入したとき、購入者(需要家)は送料無料なので、1箱25個入が4箱届こうと、1箱100個入が1箱届こうと、トータルで100個がちゃんと届きさえすればどうでもいいですよね。
しかし送料は販売者(電力会社)が実質負担するため、販売者からしたらなるべく送料のかからないように100個を1箱にまとめて送ります。
この『1箱何個入か』が電圧『何箱になるか』が電流『トータルの個数』が電力『送料』が送電損失というイメージです。



まとめ

①電力系統:
発電所
⇒送配電ネットワーク(送配電線・変電所)
⇒需要家
という一連のシステム

②電圧V(V・ボルト):
電気を流そうとする圧力

③電流I(A・アンペア):
電気の流れ

④電力P(W・ワット):
電圧と電流のかけ算(P=VI)

⑤ジュール熱(W):
電流が電線を流れたときの発熱(送電損失)

⑥発電所での昇圧の理由:
送電損失をできる限り減らすため

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