火力発電の基礎④ 〜エントロピーとT-s線図〜

キーワード:エントロピー、T-s線図、正味の熱エネルギー、正味の仕事、熱効率
難易度:★★★★☆(二種レベル)


エントロピーとは?

前回の記事では、熱サイクルにおける仕事がどの程度なのか一目で見てわかるように、p-V線図を導入しました。
p-V線図上の閉じたループの面積こそが、その熱サイクルにおける正味の仕事となることが分かりました。

以前も述べましたが、火力発電においては、タービンを回すために使われた仕事ボイラで加えた熱エネルギーに対してどのくらいの割合を占めているか、という熱効率を議論することがよくあります。
つまり、仕事だけでなく熱エネルギーも一目で分かるようなグラフが描ければ、さらに便利になりそうな気がしますよね。
ここで微小な仕事ΔWが、


で表すことができたことを思い出しましょう。
今度は熱エネルギーQに関して、上と同様な形の式ができれば良さそうですね。
つまり、


という形です。
(YやΔZはまだ分かりません。)

気体には圧力、体積、温度という状態があることは以前説明しましたが、p-V線図では圧力pと体積Vを使ったので、今回は温度Tを使ってみましょう。
つまり上の式のYを温度Tに置き換えます。
そうすると残ったΔZも決まってくるので、これをΔsと置くと、


となります。
このsのこと『エントロピー』と呼びます。
熱力学の2つ目の壁であるエントロピーですが、電験合格をターゲットにした場合はこの程度の理解で問題ありません。
つまり、グラフ上で熱エネルギーの収支が一目で分かるようにするために導入しただけのものである、という理解です。
(ちなみに1つ目の壁エンタルピーでしたね。)

エンタルピーとは異なり、エントロピーは本当は物理的に非常に重要な意味を持ちますので、興味のある方はぜひ勉強してみてください。
あくまで電験合格の上では不要な知識ですが。


T-s線図とは?

温度Tとエントロピーsの関係式が分かったので、次はp-V線図と同様にグラフにしてみましょう。
ΔW = pΔVの式に対してΔQ = TΔsなので、縦軸を温度T、横軸をエントロピーsに取ってグラフを描くと以下のようになります。

 

グラフの読み方もp-V線図のときと同様で、状態1のときのエントロピーからΔsだけ増えたときに気体に与えられる微小な熱エネルギーΔQ = TΔsで、グラフ上では以下のようになります。

 

したがって状態1から状態2まで変化する間に気体に与えられるトータルの熱エネルギーは、下図の斜線部分の面積に等しくなります。

 

数学的には、これもp-V線図のときと同様ですが、温度Tをエントロピーsで積分するということになります。

 
 

それではT-s線図上に熱サイクルを描いてみましょう。
当たり前ですが、様々な状態変化を繰り返して元の状態に戻ってくるのが熱サイクルですので、p-V線図と同様に閉じたループとなります。

 

状態1から状態2までエントロピーが増大、つまり気体が熱エネルギーを受け取りますが、逆に状態2から状態1に戻るときはエントロピーが減少、つまり気体が熱エネルギーを捨てていることになります。
前者の熱エネルギーQ12後者の熱エネルギーQ21とすれば、この熱サイクルを通して受け取った正味の熱エネルギーQQ = Q12 - Q21ということになります。
これをT-s線図上で表すと下図のようになります。

 

つまり、ある熱サイクルにおいて気体が外部から受け取った正味の熱エネルギーは、その熱サイクルをT-s線図で表したときに出来る閉じたループの面積の大きさに他なりません。
ここまでの議論は全てp-V線図のときと同様の議論なので、何も驚くことはないと思います。
T-s線図の本当の便利さが分かるのはここからなのです。
 

正味の熱エネルギーは何を意味するか?
正味の熱エネルギーとは一体何を表すのでしょうか?

状態1から状態2まで経路aを通って状態変化したとき、熱エネルギーQ12を受けてW12の仕事を外部にしたとすると、熱力学第一法則により以下の式が成り立ちます。


ここで、内部エネルギーΔUは、状態変化後の内部エネルギーU2と状態変化前の内部エネルギーU1との差ですので、上の式は以下のように書き換えられます。


一方、状態2から状態1まで経路bを通って状態変化した場合についても、熱エネルギーQ21を捨ててW21の仕事を外部からされたとすると、熱力学第一法則を用いて以下のように立式できます。


ここで、経路bの場合は放熱するので左辺は-Q21となり、また外部から仕事を受けるので右辺の第2項は-W21となることに注意しましょう。

そうして出来た2つの式を足し合わせると、以下の式のようになります。


つまり、正味の熱エネルギーQとは、正味の仕事Wに他ならないということです!


そして熱効率へ・・・

ここまでくれば、T-s線図がなぜ便利なのかなんとなく分かった方もいるのではないでしょうか?
最初にお話しした熱効率について思い出してみましょう。

『熱効率』とは、火力発電においてタービンを回すために使われた仕事ボイラで加えた熱エネルギーに対してどのくらいの割合を占めているのかを示すものでした。

タービンを回すために使われた仕事とはつまり正味の仕事Wなので、T-s線図上では閉じたループの面積になります。
一方、ボイラで加えた熱エネルギーとは気体が得た熱エネルギーなのでQ12となります。
したがって熱効率ηは以下の式で表されます。


ここでQ = Q12 - Q21を変形するとQ12 = Q + Q21となるので、これを代入すれば、


となります。
ここでQはループの面積Q21はループの下側の面積なので、熱効率がおよそどの程度かというのが一目で分かりますね。


そしてさらに、熱効率を高めるためには、下図のように経路bをできる限り横軸に近づけて、ループの面積を大きくループの下側の面積を小さくするような状態変化を実現させれば良いということが 視覚的に一目で分かるのです!


実は正味の熱エネルギーと正味の仕事が等しくなるのはp-V線図でも同様なのですが、p-V線図では気体が得た熱エネルギーが視覚的には分からないという問題点があります。
だから火力発電においてはT-s線図がよく用いられているというわけです。


まとめ
①エントロピー:
熱サイクルにおける熱エネルギーの収支が一目で分かるように導入

②温度とエントロピーの関係:

③T-s線図:
縦軸を温度T、横軸をエントロピーsとしたグラフ

④正味の熱エネルギー:
正味の仕事と等しい

⑤熱効率:

⑥熱効率の向上策:

コメント

このブログの人気の投稿

水力発電の設備② 〜吸出し管の理論〜

火力発電のコラム① 〜絶対仕事と工業仕事〜