電力系統に必要な条件④ 〜事故対策〜

キーワード:三相交流、位相、断線、短絡、地絡、接地、保護リレー、遮断器

三相交流とは?

今回は電力系統に必要な最後の条件である事故対策について説明します。

送電系統における事故には断線、短絡、地絡などがあります。
断線は読んで字のごとく送電線が何らかの原因で切断されてしまう事故のことです。
一方、短絡地絡というのはあまり馴染みがないと思います。
そこで、短絡や地絡の説明に入る前に、実際の電力系統において広く採用されている三相交流方式について説明しておきます。

今までの説明で使ってきた下の交流回路の図は単相交流回路と呼ばれます。


この回路の場合、図からも分かるように往復で2本(上と下)の送電線が必要となります。
ここで、単相交流回路を3つ並べてみましょう。


当然ですが、3つの回路にそれぞれ往復で2本の電線があるので、合計6本の電線が必要です。

しかし、行きの電線は電源ごとに必要なので3本必要ですが、帰りの電線は下図のように1本にまとめてしまうことができます。


こうすることで、3つの単相回路を別々で運用する場合に比べて、必要な電線の本数を6本から4本へと減らすことができ経済的に送電することが可能となります。

さらに経済的な送電方法について考えてみましょう。
電源電圧の大きさはどの回路も同じE[V]ですが、波の頂点が来るタイミングを下の図のように少しずつずらしてみます。


このタイミングのずれのことを位相(位相差)と呼びます。

各回路が受け持つ負荷が同じ大きさの場合、各回路に流れる電流は電圧の図と同様の形になります。


行きの線(3本)にはそれぞれ電流ia、ib、icが流れますが、帰りの線(1本)には電流ia、ib、icがまとめて流れるので、その大きさはia+ib+icとなります。


しかし実は、下図からも分かるように、どのタイミングで見てもia+ib+icの値は常に0となるのです。


したがって帰りの線には常に電流が流れないので、この電線も省略することができます。


こうして、3つの交流回路を別々で運用した場合は6本必要な電線を、3本まで減らすことができました。
この回路のことを三相交流回路と呼びます。
位相が異なる3つの回路を組み合わせているので『三相』というわけです。

 
短絡と地絡

それでは冒頭で述べた短絡地絡について説明しましょう。

短絡とは、下の図のように相の異なる電線同士(図ではa相とb相)が何らかの原因で繋がってしまうことをいいます。


凧揚げ中にタコ糸が絡まったり、鳥が羽を広げたときに接触したりと、原因は様々ですが、落雷による短絡が最も多いそうです。

相が異なるということは電圧のピークが来るタイミングがずれているので、常にその2つの相間の電圧は異なります。
つまり2線間には電圧の差が生じているため、その2線が接続されてしまうと、非常に大きな短絡電流が流れてしまいます。


続いて地絡について説明します。
地絡とは、ある相と大地が何らかの原因で繋がってしまうことをいいます。


実は大地というのは電気を通しやすい良導体なので、電圧のかかっている電線が大地と接続されてしまうと、そこを通じて電線から大地へと地絡電流が流れます。

電化製品などをコンセントに繋ぐ際に緑色のアース線も繋ぐと思いますが、これも大地が良導体であることを利用しています。
アース線の役割は、電化製品の外側などのように人が触る部分と、内部の回路で電圧がかかっている部分が、劣化など何らかの原因によって誤って接触してしまった場合即座に電気を大地に逃がしてあげることで人を危険に晒さないような措置を取っているのです。
つまりアース線を接続する場所を辿っていくと、大地に繋がっているというわけです。
このように回路の一部を大地に接続することを接地と呼びます。

事故対策

以上に示したように、電力系統に発生する短絡や地絡、断線などの事故は、非常に大きな短絡電流や地絡電流が発生したり、断線の場合は電線にかかる電圧が異常上昇するという結果を招きます。

逆に言えば、これらの現象が発生している場合は電力系統に異常が生じていることになるので、これらの現象を即座にキャッチして原因箇所を突き止め、事故発生箇所を回路から切り離すことによって、事故の発生箇所以外を停電させずに済ませることが可能となります。

このように異常現象をキャッチする装置を保護リレー(保護継電器)と呼び、事故発生箇所を回路から切り離す装置を遮断器と呼びます。


保護リレーには、ある値を超える大電流が流れた際に警報を発する過電流継電器や、ある値を超える大電圧がかかった際に警報を発する過電圧継電器など、様々な種類があります。


しかし保護リレーは、異常現象が起こった際に警報を発して騒ぐだけです。
保護リレーが騒いだ時に、事故発生箇所を回路から切り離すのが遮断器です。

遮断器は電力系統という大きな回路におけるスイッチのようなもので、通常そのスイッチはONの状態ですが、保護リレーが騒ぐとそれをきっかけに自動的にスイッチOFFの状態になるため、回路には電気が流れないようになる、つまり停電状態になります。


そして事故原因が取り払われると再びスイッチがONとなり、送電が再開されます。


実際にはこの遮断器はたくさん配置されており、回路は細かく分割されています。
それにより、事故が発生した箇所周辺をピンポイントで切り離すことが可能となり、事故と関係のない場所まで停電状態にさせてしまうのを防ぐことができます。


まとめ

①三相交流:
位相の異なる3つの電源による送電方式

②位相:
波形のピークが来るタイミングのズレ

③断線・短絡・地絡:
断線 ⇒ 電線が切断される事故
短絡 ⇒ 位相の異なる2線が接続される事故
地絡 ⇒ 電線と大地が接続される事故

④保護リレー:
事故による異常現象を検出して警報を発する機器

⑤遮断器:
保護リレーの警報に反応して回路を切り離す機器

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