電力系統に必要な条件③ 〜安定度〜
キーワード:有効電力、無効電力、力率、脱調、同期安定度、電圧崩壊、電圧安定性
有効電力と無効電力
有効電力とは実際に消費される電力のことで、逆に無効電力は消費されずに回路内を行ったり来たりする電力のことを言います。
まずは直流回路の場合を考えます。
電源電圧E[V]、負荷抵抗R[Ω]の場合、回路に流れる電流I[A]は、オームの法則より、
I = E/R
で表されるので、負荷での消費電力Pr[W]は、
Pr = RI^2 = RI×I = RI×E/R = EI
となります。
一方、電源が供給する電力Ps[W]は、
Ps = EI
なので、Ps = Prとなり、電源が供給した電力は全て負荷で消費されることになります。
次に交流回路の場合を考えます。
回路図的には先ほどと変わらないように見えますが、交流なので負荷が抵抗ではなくインピーダンスとなります。
(インピーダンスについては前回の記事で説明しました。)
電源電圧E[V]、負荷インピーダンスZ[Ω]の場合、回路に流れる電流I[A]の大きさは、直流の場合と同様に考えると、
I = E/Z
で表されます。
ここで直流回路には無かった力率cosθに注目しましょう。
インピーダンスには、以前説明したように、電気抵抗成分だけでなくコイル成分やコンデンサ成分が含まれています。
力率とは、イメージ的にはインピーダンスZの中の抵抗成分Rの含有率を表すようなものです(厳密には違いますが)。
式で表すと、
R = Zcosθ
となります。
直流の場合と同様で、あくまで電力を消費するのは抵抗成分Rなので、負荷での消費電力Pr[W] は、
Pr = RI^2 = R×I×I = Zcosθ×I×E/Z = EIcosθ
となります。
このPrのことを、実際に消費される電力なので有効電力と呼びます。
逆に、インピーダンスの中のコイル成分やコンデンサ成分の含有率のようなものはsinθで表されるので、それらが受け取る電力Qrは、
Qr = Zsinθ×I×E/Z = EIsinθ
となります。
このQrのことを、実際には消費されずにコイルやコンデンサと電源との間を行ったり来たりする電力なので無効電力と呼びます。
電源から供給される電力Sは、直流の場合と同じく、
S = EI
となるので、電源から供給した電力S = EIのうち、負荷の抵抗成分で消費されるPr = EIcosθだけが実際に使われているということになります。
同期安定度
発電所で使われている発電機はほとんどが同期発電機と呼ばれるもので、その名の通り電力系統に接続された全ての同期発電機はシンクロ(同期)しています。
発電機の回転数は周波数によって決まるので、全ての同期発電機は、電力系統の周波数に対応した回転数で回っているということです。
発電機は、以前説明したように、回転軸を何らかの力で回転させることによって発電しています。
つまり少し難しい言い方をすると、機械入力を電気出力に変換しているということです。
ここで機械入力とは、水力発電で言えば水車を回すための水が持つエネルギーのことで、火力発電や原子力発電で言えばタービンを回すための蒸気が持つエネルギーのことです。
水車やタービンを発電機の回転軸に接続し、それらを水や蒸気などの機械入力によって回転させることで、発電機の回転軸を回して発電しています。
水・蒸気の勢いや量などの機械入力を一瞬で変化させることは困難であり、特に、発電所で使われるような膨大な圧力や量の水・蒸気を変化させるには、ある程度の時間がかかります。
一方、電気出力とは需要家が使用する負荷で消費する電気エネルギーのことです。
例えば扇風機はスイッチを入れた瞬間に動き出すことからも分かるように、電気出力は一瞬で変化することが可能です。
つまり、需要家が電化製品や電気設備などを思いのままにオン・オフさせることによって、発電機の電気出力は変動します。
一方、先ほど述べた通り機械入力はすぐには変化できないため、電気出力の変動についていくことができません。
このように、機械入力と電気出力との差、つまり有効電力にアンバランスが生じることで、電力ネットワークに接続された全ての同期発電機は加速したり減速したりします。
(これについては周波数の変動の記事でお話ししました。)
この変動についていけなくなってしまい、同期発電機がシンクロ状態を保てなくなって電力ネットワークから脱落してしまい、送電不能な状態に陥ってしまうことを脱調と呼びます。
つまり、発電機の同期安定度とは、電気出力に変動があっても脱調に陥らず、安定して送電を続けられるかどうかの度合いを示しているのです。
電圧安定性
無効電力について、回路内を行ったり来たりするだけで消費されない電力のことであると説明しました。
それでは無効電力とは、送電するにあたって、邪魔なだけで必要のないものなのでしょうか?
実はそうではありません。
むしろ電圧の変動を抑えるためには必要不可欠なものなのです。
実は、ある大きさの有効電力を需要家に届けるとき、需要家における電圧が変動しないようにするためには、その有効電力の大きさに対応した無効電力が必要となるのです。
逆に言えば、無効電力をそのままにして有効電力の大きさを変えてしまうと、需要家の電圧は大きく変動してしまいます。
需要家の電圧変動は避けるべきなので、負荷の変動、つまり有効電力の変動に合わせて、送り出す無効電力の大きさも調整してあげる必要があります。
それでは負荷の急変や送電線での短絡事故が発生した場合はどうなるでしょうか?
瞬間的に有効電力に大きな変化が生じるので、それに合わせて無効電力も瞬時に変える必要があります。
それに対応できるだけの無効電力発生設備があれば良いのですが、それでも無効電力が不足してしまうと、最悪の場合、電圧が雪崩的にどんどん低下していき、ついにはゼロになってしまいます。
この現象を電圧崩壊と呼びます。
つまり、電圧安定性とは、負荷の急変や送電事故があっても電圧崩壊状態に陥らず、安定して送電を続けられるかどうかの度合いを示しているのです。
まとめ
①有効電力・無効電力:
有効電力 ⇒ 抵抗成分で実際に消費
無効電力 ⇒ コイル・コンデンサ成分と電源間で行き来
②力率cosθ:
インピーダンス中の抵抗成分の含有率みたいなもの
③脱調・同期安定度:
脱調 ⇒ 発電機が同期運転できずに脱落する現象
同期安定度 ⇒ 有効電力アンバランス時にも脱調を起こさずに送電できるかどうか
④電圧崩壊・電圧安定性:
電圧崩壊 ⇒ 電圧が雪崩的に低下する現象
電圧安定性 ⇒ 無効電力アンバランス時にも電圧崩壊を起こさずに送電できるかどうか
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