火力発電のコラム① 〜絶対仕事と工業仕事〜

キーワード:エンタルピー、絶対仕事、工業仕事、流れ仕事、熱効率
難易度:★★★☆☆(二種レベル)


開いた系に関する疑問

開いた系について説明したとき、開いた系特有の『流れ仕事(pV)』が邪魔くさいので、内部エネルギーUと足し合わせたエンタルピーHという概念を導入しました。
このエンタルピーの導入によって、開いた系と閉じた系のエネルギー保存則の式が似たような形になって扱いやすくなりましたね。

しかしそのときの記事の最後にも書きましたが、流れ仕事内部エネルギーUではなく仕事Wtに組み込んだ方が良いのではないかと思う方もいると思います。
なぜならば、開いた系のエネルギー保存則を再掲すると、


となりますが、これを少し変形すると、


となります。
したがって、右辺の第2項から第4項までをひとまとめにして『仕事』と置いてやれば(W = Wt + p2V2 - p1V1)、閉じた系と全く同じQ = ΔU + Wという式が成り立つので、かえって扱いやすいのではないか、という疑問です。


絶対仕事と工業仕事
閉じた系では気体は流れていないので、流れ仕事がありません。
したがって加えた熱エネルギーQから内部エネルギーの変化分ΔUを差し引いた仕事Wは、全て外部にした仕事になります。
つまり仕事Wピストンを動かすために使われたエネルギーに等しいということです。
この仕事Wのことを『絶対仕事』と呼びます。

一方、開いた系では気体が流れているので、後続の気体に押されるエネルギー、つまり流れ仕事pVが存在します。
したがって熱エネルギーQから内部エネルギーの上昇分ΔUを差し引いた仕事Wの中には、流れ仕事も含んでいることになります。
つまり仕事Wタービンを回すために使われたエネルギー以外にも余分なもの(流れ仕事)を含んでいる、ということになるのです。
じゃあ実際にタービンを回すために使われたエネルギーはどの程度かというと、当然ですがWtということになります。
この仕事Wtのことを『工業仕事』と呼び、絶対仕事とは区別されています。

開いた系ではなぜ工業仕事を使うのか?

もはや説明の必要もないとは思いますが、火力発電の分野では、タービンを回すために使われた仕事がボイラで加えた熱エネルギーに対してどのくらいの割合を占めているか、という熱効率を議論することが非常に多いのです。
したがってタービンを回すために使われた仕事、つまり工業仕事こそが重要であり、知りたい値であるのです。

それを求めるために、内部エネルギーや流れ仕事をごちゃごちゃと計算するよりも、それらをひとまとめにしたエンタルピーというパラメータを導入してしまえば、計算が非常に楽になるというわけです。

ここまでくれば絶対仕事と工業仕事というネーミングの由来もなんとなく分かるでしょう。
タービンを回すための仕事のことを工業仕事と言いましたが、工業的に使用可能な仕事という意味でそう名付けられたのでしょう。

そして流れ仕事は、後続の気体から押し込まれることで得たり、先にいる気体を押し出すことで失ったりする仕事なので、工業的に使用することは不可能です。
開いた系において、絶対仕事は工業仕事と流れ仕事の和でしたが、工業的に使用可能か不可能かは関係なく、それらを全部ひっくるめた絶対的な仕事という意味で名付けられたのでしょう。

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