水力発電のコラム① 〜大気圧による圧力エネルギー〜

キーワード:大気圧、大気圧による圧力エネルギー、ゲージ圧、絶対圧
難易度:★★★☆☆(二種レベル)


水面は本当に圧力ゼロか?

水力発電の基礎②の記事で、ベルヌーイの定理を実際の水力発電に当てはめる際に、上池の水面にはその上に水が存在しないので、水に押されることはないため圧力エネルギーが0になるという説明をしました。
しかし実際には、水面は空気と接していて、その空気に押されている(大気圧がかかっている)ため、圧力エネルギーは0ではないのではないか?という疑問を持った方もいるのではないでしょうか。


この疑問はまさにその通りで、実際に水面が持つエネルギー位置エネルギーと大気圧による圧力エネルギーの和ということになります。
しかし、この大気圧によるエネルギーというのは無視しても実用上差し支えないのです。
その理由をこれから説明していきます。
 
水力発電について再度考える


もう一度、水力発電の構成を見てみましょう。


まずはこの図の上池の水面について考えます。


水面におけるエネルギーは、先ほども述べたように位置エネルギーU1と大気圧による圧力エネルギーPaの和となります。


次に水管内について考えます。


上池の水面を空気が押しているので、その影響によって水管内のどの断面においても、大気圧による圧力エネルギーPaが存在します。
以前たとえ話で使ったところてんの原理を考えれば分かりますよね。
それ以外に、位置エネルギーU2運動エネルギーK2、そして以前説明した通り、その断面より上に存在する後続の水に押されることによって生じる圧力エネルギーP2を持っているので、水管内のある断面におけるエネルギーは以下のようになります。


最後に水車の出口について考えます。


水車を回し終わった水は再び河川へと放流されますが、その水は上池の水面と同様、空気に接しているため、大気圧による圧力エネルギーPaが存在します。
それ以外に運動エネルギーK3が存在しますが、注意すべきなのは後続の水によって押される圧力エネルギーはゼロであることです。
なぜならば、水車の出口において、水は水管のような密閉された空間に詰められているのではなく、空気中に自由に放出されるからです。
つまり下図のように、水車出口の直前で持っていた圧力エネルギーP3'と運動エネルギーK3'は、空気中に放出された瞬間にすべて運動エネルギーK3に変わっているということです。



したがって水車の出口におけるエネルギーは以下の式のようになります。


いま考えた3つのケースのエネルギーの式を見返してみると、すべての式に大気圧による圧力エネルギーPaが含まれていることが分かりますよね。


つまり、上池の水面には間違いなく大気圧による圧力エネルギーがありますが、その水は水管を流れて水車を回し出口から河川へと放流されるまでの間、ずっと大気圧による圧力エネルギーPaを持ったままということになります。
つまり発電に全く寄与しないエネルギーであるということが言えます。


以上の説明より、大気圧による圧力エネルギーPaは水力発電においては無視しても差し支えないということが理解できると思います。
ベルヌーイの定理の式で考えれば、左辺にも右辺にもPaが現れるので、計算上は打ち消しあって消えるため、Paを無視しても問題ないということです。

 
ゲージ圧・絶対圧・大気圧
以上のように、どの点においても大気圧による影響が見られるので、圧力計のような計器は大気圧を基準(ゼロ点)としたものが一般的です。
例えば自転車や自動車の空気圧計では、タイヤの中の空気圧が外の空気の圧(大気圧)よりも高いか低いかを測定するようになっていますよね。
このように大気圧に対しての圧力のことをゲージ圧と呼びます。
ここでいうゲージとはまさに計器という意味です。

それでは、中学校で習った『大気圧は1013hPaである』というこの1013hPaという数字は何かというと、真空の圧力を0としたときの圧力の大きさを表しています。
このように真空状態に対する圧力のことを絶対圧と呼びます。

これらの関係を図にすると以下のようになります。

つまり、水力発電で圧力について考えるときはゲージ圧を用いているということになります。
だから、大気圧しかかかっていない上池の水面の圧力エネルギーはゼロであると考えてよいということです。


まとめ
①大気圧による圧力エネルギー:
ゲージ圧で考えればゼロ

②ゲージ圧・絶対圧・大気圧:
ゲージ圧=絶対圧-大気圧

コメント

このブログの人気の投稿

火力発電の基礎④ 〜エントロピーとT-s線図〜

水力発電の設備② 〜吸出し管の理論〜

火力発電のコラム① 〜絶対仕事と工業仕事〜