水力発電の基礎① 〜ベルヌーイの定理〜
キーワード:運動エネルギー、位置エネルギー、力学的エネルギー保存則、圧力エネルギー、ベルヌーイの定理、非圧縮性流体、連続の式
難易度:★★☆☆☆(三種レベル)
運動エネルギーとは?
運動エネルギーをご存知ですか?
物体は動いているときにエネルギーを持っているという考え方です。
そのことは、動いている物体が他の物体に衝突すると、それを動かしたり変形させたりすることからも分かると思います。
物体の質量をm[kg]、速度をv[m/s]とすると、運動エネルギーK[J]は以下のようになります。
つまり、物体は重ければ重いほど、そして速ければ速いほど大きな運動エネルギーを持っているということです。
これは感覚的に理解できます。
体重の軽い人と重い人が同じ速さで走っているとき、重い人にぶつかったときの方が強い衝撃を感じますよね。
また、同じ野球のボールでも、キャッチボール程度の速度の玉とプロのピッチャーが投げた玉のどちらの方が当たると痛いかは言うまでもないでしょう。
位置エネルギーとは?
それでは次に、下図のような状況を考えます。
すべり台の頂上にいるときは止まっているから速度はゼロです。
しかしすべり始めると徐々に加速していき、地表まで来た瞬間は結構な速度になりますね。
つまり、運動エネルギー(K)が徐々に増えているということになります。
しかし何もないところからエネルギーが発生するというのは違和感がありますよね。
そこで導入されたのが『位置エネルギー』という概念です。
先ほどのすべり台の例でいうと、より高い位置からより重いものを転がした方が、最終的な運動エネルギーが大きくなることは感覚的に分かると思います。
つまり高い位置にいるほど、また重いものほど大きな運動エネルギーを持つ"可能性を秘めている"ということです。
位置エネルギーとはまさに運動エネルギーに変えることのできる秘められたエネルギーのことなのです。
物体の質量をm[kg]、重力加速度をg[m/s^2]、高さをh[m]とすると、位置エネルギーU[J]は以下の式のようになります。
位置エネルギーは秘められているので実体はありません。
つまり位置エネルギーを持っているだけでは他の物体を動かしたり変形させたりはできず、逆に他の物体を動かしたりしたい場合は位置エネルギーを運動エネルギーに変えなければならない、という点に注意してください。
(その証拠に、英語では位置エネルギーのことを『potential energy(潜在的なエネルギー) 』と言います。)
例えるならば、位置エネルギーが銀行口座の預金額、運動エネルギーが手元にある現金です。
総資産を全部銀行に預金しても、全部手元に現金で持っていても価値は同じですが、実際にお店で物を買う際に必要なのは手元の現金です。
実際に他の物体に作用させるためには位置エネルギーのままでは意味がなく、運動エネルギーへと変える必要があるのです。
力学的エネルギー保存則
運動エネルギーKと位置エネルギーUを足したものを『力学的エネルギー』と呼びます。
お金の例を通して予測はついたと思いますが、この力学的エネルギーEは、外部からエネルギーが加えられない限り、常に一定に保たれるというのが『力学的エネルギー保存則』です。
すべり台の例でいえば、頂上にいるときは止まっているため速度はゼロですが、最も高い位置にいるので位置エネルギーは最大になります。
そして転がっていくにつれて徐々に加速し運動エネルギーは増えていきますが、それに反して位置は低くなっていくので位置エネルギーは減っていきます。
そして地表まで来たときに運動エネルギーは最大となり、位置エネルギーはゼロになります。
このように運動エネルギーKと位置エネルギーUは変動しますが、それを足した力学的エネルギーEはどの時点で考えても等しくなるのです。
圧力エネルギーとは?
力学的エネルギー保存則は、すべり台の例でいうところの球体などのように、固体に対して成り立つ法則でした。
しかし水力発電では水を扱います。
水は流体なので、力学的エネルギー保存則はそのままの形では成り立ちません。
なぜかというと、流体は連続しているので、隣り合う流体に押される圧力が存在するからです。
下図の水管の中のある断面(斜線部分)について考えると、その断面よりも上にある水(水色部分)は重力により低い方に落ちようとし、斜線部分の断面を押す力(圧力)が働きます。
その力によって水が動くと、水にはエネルギーが加えられたということになります。
圧力によって水に加えられるエネルギーのことを圧力エネルギーと呼びます。
斜線部分の断面積をA[m^2]、圧力をp[N/m^2]とするとき、水がd[m]動いたとすると水に加えられる圧力エネルギーP[J]は以下のようになります。
斜線部分の断面積をA[m^2]、圧力をp[N/m^2]とするとき、水がd[m]動いたとすると水に加えられる圧力エネルギーP[J]は以下のようになります。
ベルヌーイの定理
力学的エネルギー保存則は、"外部からエネルギーが加えられない限り"成り立つということでした。
したがって、流体を扱う場合、圧力エネルギーが外部から加えられるので、力学的エネルギー保存則は一見成り立たなくなってしまうように思えます。
しかし、力学的エネルギーE(運動エネルギーK+位置エネルギーU)に圧力エネルギーPを加えたものが常に等しいと考えれば、新たな保存則が出来上がります。
したがって、流体を扱う場合、圧力エネルギーが外部から加えられるので、力学的エネルギー保存則は一見成り立たなくなってしまうように思えます。
しかし、力学的エネルギーE(運動エネルギーK+位置エネルギーU)に圧力エネルギーPを加えたものが常に等しいと考えれば、新たな保存則が出来上がります。
この式のことをベルヌーイの定理と呼びます。
ここで、水のような流体は連続で流れているため、球体のように1つあたりの質量を考えることができません。
したがって流体の場合は、各断面を1秒間に通過する水の質量について考えることにします。
したがって、ある断面を1秒間に通過する水の体積Q[m^3/s]は、断面積をA[m^2]とするとQ=Av[m^3/s]となります。
水の密度をρ[kg/m^3]とすれば、ある断面を1秒間に通過する水の質量はm=ρQ=ρAv[kg/s]となるので、この考え方のもとで、運動エネルギーK、位置エネルギーU、圧力エネルギーPについて考え直すと以下のようになります。
したがって、これらの式をベルヌーイの定理の式に代入すると以下のようになります。
イメージ的にはところてんのように筒の入口から押し込んだのと同じ量(体積)が出口から出てくるのと同じです。
(逆に圧縮性の流体の場合だと、筒の内部で圧縮されて密度が高まるので、入口で押し込んだ量よりも出口から出てくる量が小さくなります。)
つまり非圧縮性流体の場合はQ=A1v1=A2v2=・・・という式が成り立ち、これを連続の式と呼びます。
したがって上のベルヌーイの定理の式をρQgで割ると、次式のようになります。
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