電力系統について② 〜需要家の手前で降圧する理由〜

キーワード:絶縁耐力、絶縁破壊、絶縁破壊電圧、需要家手前での降圧の理由

絶縁耐力と絶縁破壊

電力系統は以下の図のようになっていることを前回の記事で説明しました。

また、発電所でわざわざ電圧を高くしている理由についても説明しました。
今回は逆に『なぜ家庭用コンセントの電圧をわざわざ100Vまで下げるのか?』について説明したいと思います。

以前、電車線に関する話をした際に、絶縁耐力や絶縁破壊について説明しました。
『絶縁耐力』とは、電気を通さない絶縁体の両側にプラスとマイナスの電荷があるとき、それらの電荷間の吸引力に絶縁体が耐えられる限界値のことです。
また、吸引力に耐えきれなくなって絶縁体内を電荷が通過し放電してしまうことを『絶縁破壊』と言います。

一方、電圧とは『電気を流そうとする圧力』だと説明しました。

電荷が引き寄せ合うということは、要するに電荷に圧力がかかっている状態なわけですから、この引き寄せ合う力は電圧に比例します。
つまり、電圧が高くなればなるほど絶縁破壊を起こしてしまう危険性が高まるということです。

 
コンセントで絶縁破壊する!?

空気の絶縁破壊電圧(絶縁耐力)は3,000kV/mと言われています。

一方、コンセントの左右の穴の間の距離は高々1cm(0.01m)程度なので、その絶縁破壊電圧は3,000kV/m×0.01m=30kVとなります。

つまり現在の日本の送電線の最大電圧である500kVをそのままコンセントまで引っ張ってきても、その左右の間で空気が絶縁破壊を起こしてしまい、まともに使うことができないということです。
逆に、500kVでも絶縁破壊を起こさないコンセントの幅は、500kV÷3,000kV/m=0.167mなので約17cm程度離さなくてはいけないということになります。

(それ以前に、建物を構成する建築材料などにもかなりの絶縁耐力を持ったものを使用しないと、電気はコンセントに至る前に絶縁破壊を起こしてしまうため、先の例はあまり現実的な議論ではありませんが、絶縁破壊のイメージを掴むためのたとえ話だと思ってください。)


コンセントの手前でわざわざ降圧する理由

電車線設備と同様送電線もがいしという絶縁体を使用して鉄塔で支持されています。
電車線の電圧は1.5kVなのに対し、送電線は先ほど述べたように最大で500kVにもなるため、がいしが何十個も連なるような重厚な設備となっています。

また、電圧が高くなればなるほど変電所の規模は大きくなりますが、変圧器などの機器類の絶縁耐力を高めるためには大型化が避けられないというのが理由の1つです。

つまり、発電所で高めた電圧をそのまま家庭に引っ張ってくると、コンセントの幅問題はなんとか解決したとしても、使用する全ての電化製品は非常に高い絶縁耐力を持っている必要があるため、かなり大型で重厚なものになってしまいます。

一方、電圧を100Vまで低くすれば、電化製品の絶縁耐力を低くできるため、非常にコンパクトにすることができます。
電化製品の消費電力が一定だとすると、電圧を低くすれば電流は大きくなります(P=VI)が、内部回路に使用する材料を電気抵抗の小さいものにしたり、パソコンなどのファンのように冷却装置を備え付けることで、ジュール熱による機器の温度上昇を抑えることは可能です。

つまり『絶縁耐力を高めること(電圧増加)』『ジュール熱を抑制すること(電流増加)』を天秤にかけたときに、後者の方が圧倒的に簡単に実現できるため、需要家へ届ける際には100Vという低い電圧まで下げられています。        
まとめ

①絶縁耐力(絶縁破壊電圧):
その物質が放電しない限界の電圧値

②絶縁破壊:
絶縁破壊電圧以上の電圧印加による放電

③需要家手前で降圧する理由:
『電圧増加による絶縁耐力向上』よりも『電流増加によるジュール熱抑制』の方が容易

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